提言・調査・報告
要望書「美術家を労災保険の特別加入の対象とすることに関わる要望書」[2022.02.04]

美術家を労災保険の特別加入の対象とすることに関わる要望書



厚生労働大臣
後藤 茂之 様


 日本美術家連盟は、昭和24年創立の美術家の職能団体です。全国に4500名の会員を擁し、美術家の福利厚生の向上、権利擁護、国際交流、美術の振興等を目的とした事業を実施しています。
 この度、国が個人事業主、フリーランスのセーフティネットの整備のため、労災保険の特別加入分野の拡充を検討されていると聞きました。この措置の一環として、この春、芸術分野において実演家とアニメーターが特別加入の対象として追加されております。

 私共美術家は、集団で活動することもありますが、基本的には一人一人が作家として活動する個人事業主となります。制作した作品の販売に加え、美術教室や講師等により収入を得ています。もともと制作の際の工具の使用や、展示の際の高所作業、搬送の際の事故等、危険の多い職業でありますが、近年、作品の大型化や野外作業の増加等により、その傾向はますます強くなってきております。

 この度の労災保険の特別加入対象の拡充の報に接し、私共は会員の仕事中の傷病の実際を把握するため、事故事例のアンケート調査を実施しました。その結果、約1000の回答の中で、制作に由来するケガや病気を経験したことのある者は200弱、同様に仕事に由来する移動中の事故等のケガは100名の方が経験されておりました。その中には、骨折や指、神経の切断等の重篤なものや長期にわたる入院加療を要したものも多く含まれております。多数の方は、療養に要した費用を自らが負担しており、仕事の中のケガが経済的な意味でも、創作活動の中断という意味でも多くの困難をもたらすことがうかがえます。

 このような実情に鑑み、私共は、美術家を労災保険の特別加入の対象としていただくことを強く要望いたします。
この制度改正により、美術家は安心して美術の仕事を継続し、また万が一事故にあった場合にも、その経済的な支えを得て生活を維持し、創作活動を再開することができます。
美術家の制作活動を継続的に支えることは、結果として多様な美術表現を地域と日本にもたらし、多くの市民が豊かな芸術体験を持つことにつながります。文化芸術を支える基盤整備を進める意味で、是非この制度改正をお願いいたします。


2022年2月4日
一般社団法人 日本美術家連盟
理事長 中林 忠良