提言・調査・報告
要望書「第三次補正予算における美術活動の支援についての要望書」[2020.12.25]

第三次補正予算における美術活動の支援についての要望書



文化庁長官 宮田 亮平 様



 令和2年7月に開始された「文化芸術活動の継続支援事業」は、第四次にわたる募集により多くの美術家が交付決定を受けることができました。当連盟も事前確認番号の発行団体として4000を超える美術家に番号を発行し、番号を持たずに直接申請された方も含めれば、万に達する美術家か応募したものと推測します。多くが交付決定を受け、美術活動の再開に向けて経済的な支援を得たことは、貴庁並びに現場で対応にあたられた日本芸術文化振興会の職員の皆様のご尽力によるものと深く感謝しております。

 今般第三次補正予算の事業計画、編成が進められているとうかがいました。新型コロナウィルスの影響は欧米でのワクチン開発が成果を上げていると側聞するものの、個々の美術家そして美術団体のおかれている現況は、第三波の嵐の只中であり、いまだトンネルの出口は見えていません。つきましては、先の「文化芸術活動の継続支援事業」の目指した個々の美術家を支援するという画期的な意義を継承しつつ、第三次補正予算の策定にあたっても継続的な美術活動への支援のため、下記の事項を要望いたします。

・公募団体への支援
公募団体は、日本独自の芸術発表の在り方です。現在、美術分野では、法人格を有するもの、有しないものを含め300程の公募団体が活動しています。多くが、国立新美術館、東京都美術館等、公共美術館の展示スペースを利用し、年1、2回の会員並びに一般からの応募審査に基づく展覧会発表をしております。展示の運営、審査はプロフェッショナルの美術家が自ら担うことから、高い水準の作品が発表されています。公募団体は、多くの美術家に発表の機会を提供すると共に、美術家の集合体としてその育成、一般への美術の普及にも大きな役割を果たしています。
令和2年、春からの新型コロナ禍は多くの公募団体の展覧会を中止に追い込みました。公募展は、主展示が地方に巡回されることも多いのですが、主展示の中止が地方展示の中止にもつながりました。展覧会の広報や図録作成等に係る費用が無駄になったばかりでなく、発表展示の機会を失い、出品者のモチベーションの低下や組織としての求心力の低下といった問題も引き起こしました。また、間接的な問題ではありますが、会場を予定していた国立新美術館、東京都美術館等美術館の会場料の減収をもたらしたものと考えられます。
「継続支援事業」では中小芸術団体への支援が盛り込まれていたものの、前記の通り公募団体は季節性のある活動をしていることから、この支援に応募した団体は多くはありません。
つきましては、いまだ確たる先行きがない中で取り組む各公募団体の新年度の展示の開催に向け、第三次補正予算において出来る限りの支援をお願いいたします。

・各地のアートセンター等美術団体への支援
日本各地には、芸術活動の支援を目的としたアートセンター等の芸術支援団体があります。また、美術家が自ら組織して美術と教育、地域振興などを包括した活動をしている団体もあります。新型コロナ禍の中では、これらの団体の美術家の支援活動や、展示、ワークショップ、講演会等の活動が大きく制限されました。また継続のためには新型コロナ対策として費用、人手が必要となりました。一般的に財務面では地方公共団体の予算もしくは補助金、一般からの寄附、そしていくつかの団体は収益事業を実施しているものもありますが、総じて収入は減少の傾向の中、コロナ対策による支出の増加が財務面を圧迫しています。またコロナ禍にあって支援事業は増加するものですが、人手の不足から団体職員への負担も増しています。
芸術支援団体は本来美術家の活動を支える最前線に位置するものであり、美術活動団体は社会との接点に美術を導入しようとするものです。これら芸術支援団体、美術活動団体の疲弊は、美術家の発表、研究、福利、そして美術の社会への伝達と受容にマイナスの影響を与えるものであり、結果として日本の芸術の沈滞をもたらします。
つきましては、これら全国各地の芸術支援団体、美術活動団体が、自身の活動を継続強化するために直接応募できる支援の枠組みを是非準備いただきますようお願いいたします。

・アフターコロナに向けた研究
新型コロナの影響は、多くの芸術家に甚大な影響を与えました。それは、このような緊急の危機に対して、私共文化芸術の領域が立っている地盤がいかに脆いものであるかを感じさせるものでした。芸術分野がこのような危機にあっても、活動を継続するためには、芸術を支えるインフラストラクチャーとなる制度とこれを運用する仕組みが必要です。つきましては、いまだコロナは去っておりませんが将来を見据えて、芸術インフラとなる制度とその運用の研究を支援いただきますようお願いいたします。美術分野では、都市、ビルの建設等の不動産開発の際に、パブリックアートもしくはアートプロジェクトの実施、あるいは様々な芸術振興への貢献度に応じた優遇税制あるいは容積率の緩和等の制度改正をはかることにより、芸術振興にインセンティブを与えることがテーマの一例として考えられます。公共、民間を問わず、恒常的に文化芸術を支えるこのような制度の調査研究に補正予算を盛り込んでいただくことを要望いたします。


「継続支援事業」は個人への支援という点で大変意義のあるものでした。第三次補正予算では、各芸術家個人への支援を媒介する団体を支え、強化することを通じ、個の表現活動を日常にもどすこと、また可能ならばその先につながる仕組みへの準備をお願いしたいと考えました。以上、ご賢察のうえ、ご検討のほどよろしくお願いいたします。


令和2年12月23日
一般社団法人 日本美術家連盟
理事長  中林 忠良